「稲成」の言い伝え ~お稲成さまは、失せ物発見の神様~
太皷谷の「お稲荷さま」が「お稲成さま」と変更されたことについて、地元の古老は次のような話を語り伝えております。
安永二年、伏見より「お稲荷さま」が勧請された直後のことです。お城の蔵番をしていた男がどうしたことか、お蔵の鍵をなくしてしまいました。どこを探しても見つからない。おそるおそる蔵番は事の次第をお殿様に申し上げました。お殿様は大変ご立腹で、「七日間待ってやる。その間に探し出さねば捨ておかんぞ!」と蔵番に申し付けられました。「何とかしなければ」と蔵番は懸命に探すのですが見つかりません。思いあまってお殿様以外は参ってはならないことになっている「お稲成さま」に七日間の願をかけ、内緒にお参りをつづけました。
やがて願あけの七日目の朝、お殿様から指定された最後の日の朝、自分の家の自在鍵のところでチリンチリンと音がします。不思議に思って見ると、何とあれほど探しても見つからなかったお蔵の鍵がそこにあるではないですか。
蔵番は大急ぎでその鍵を持ってお殿様に報告に行きました。もちろん、お殿様に無断でかくれて「お稲成さま」にお参りしていたのだし、その鍵をお返しして厳しい処罰をうけるつもりでした。
「どうして出てきたのか」と問われるお殿様に、蔵番はつつみかくすことなく、その事情を報告し、厳罰をお願いしました。お殿様はその蔵番の話を聞かれて感心され、「正直なやつだ。もうよい」と蔵番をお許しになり、「それにしても願望成就の御神威が高いお稲荷さまだ」との仰せから「稲成神社」とあらためて称するようになりました。
との言われております。このような話は、伝承のため確たる証拠はございませんが、代々人から人へと語り継がれております。